2012年4月22日日曜日

広島市 安佐南区 緑井整形外科 人工関節センター/スポーツ障害 靭帯損傷 半月板損傷


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膝の痛み・膝の病気やケガ

膝は大腿骨(だいたいこつ)(ふとももの骨)と脛骨(けいこつ)(すねの骨)、さらに膝蓋骨(しつがいこつ)(皿の骨)で構成されており、これらの骨が靭帯(じんたい)や筋肉、さらに関節包(かんせつほう)などの軟部組織で覆われて、関節として働いています。

膝は下肢の中心にあって、歩行などの動作時にはまさに脚の要(かなめ)の関節として働きます。とりわけ重要な役割を担っている分、最も病気やケガが発生しやすい関節の一つとなっています。

膝に痛みや不具合を生じる病気はたくさんありますが、中でも中高年に発生する変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)は最も頻度が高い疾患と言えます。その他にも膝関節内の大腿骨内顆骨壊死(ないかこつえし)や痛風、偽痛風(ぎつうふう)、関節リウマチに伴う関節炎も中高年によく見られ、膝に強い痛みを生じます。

若い世代の方では、やはりスポーツなどに伴う膝の靱帯損傷の頻度が高く、その他にも関節内のクッションの働きをする半月板(はんげつばん)と言われる軟骨が傷ついて、膝に引っ掛かりや痛みを生じる半月板損傷も多く見られます。

膝のスポーツ障害としてはサッカー選手に多いOsgood-Schlatter(オスグッド・シュラッター)病やジャンプ競技を行う選手に見られるジャンパー膝、さらに陸上選手などにはランナー膝や膝内側の鵞足炎(がそくえん)なども膝痛の原因になっています。

その他若い世代の方に生じやすい病気としては、離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)、分裂膝蓋骨、膝蓋骨軟化症などが含まれます。

膝蓋骨脱臼も若い世代の方に多く見られますが、スポーツの際の外傷に伴って生じるだけでなく、先天的な膝の形態異常によって外傷とは無関係に生じることもあります。

膝に悪性腫瘍が発生することは稀ですが、色素性絨毛性滑膜炎(しきそせいじゅうもうせいかつまくえん)や滑膜血管腫(かつまくけっかんしゅ)、滑膜性(骨)軟骨腫症(かつまくせい(こつ)なんこつしゅしょう)、ガングリオンなどの良性腫瘍や腫瘍類似の疾患は、膝の不調を訴えて来院される方の中に時々見られます。

また変形性関節症には膝窩(しつか)部(膝の裏側)に嚢胞(のうほう)形成(ベーカー嚢胞)を伴って、膨らみを感じたり、膝を曲げる時の違和感を生じることも少なくありません。

変形性膝関節症

概要

中高年、特に60歳以上の方の膝痛の原因としては最も多い病気です。

立ち上がりや歩き始めに痛みが強いのが特徴的で、階段を降りる動作でも痛みが強いため、時に「後ろ向きで階段を降りる」と言われる方もあります。

正座や胡坐(あぐら)動作が困難となり、進行すると膝が十分に曲げ伸ばしできなくなり、下肢全体もO脚変形(時にX脚)変形となって、歩行も不自由になってきます。

膝に水がたまって、膝を曲げたときの突っ張り感を自覚したり、膝の裏側に瘤のようなものができる、ベーカー嚢胞(のうほう)もしばしば合併します。

診断

診断は問診で上記のような症状を確認した上で、レントゲン検査を行うことで比較的容易にできますが、合併する半月板損傷の有無を調べたり、他の病気と鑑別するためにMRI検査を行うこともあります。

治療

運動療法(リハビリ)・薬物療法・手術療法が病院で行う治療の3本柱です。

運動療法(リハビリ)と装具療法

リハビリでは体幹および下肢の筋力訓練やストレッチを行って、筋肉のバランスを整えます。リハビリには膝の痛みを和らげ、日常生活動作を行いやすくする効果がありますが、短期間で効果を得ることが困難なことも多いので、継続して治療を行う必要があります。

「歩いて筋肉を鍛(きた)える。」と言われる方もありますが、筋肉のバランスを整えることは単に歩くだけでは達成が難しく、また膝への負担を避ける必要のある方も多いことから、やはり適切な運動療法の習得が重要です。

また膝への負担を軽減するために、装具(サポーターのような器具)を用いることもあります。直接膝の角度を矯正したり、また足底に楔(くさび)型の装具を装着して、膝の内側や外側に偏った体重負荷を矯正する方法があります。

薬物療法

比較的症状の軽い方はシップや塗り薬などの外用剤が有効なこともありますが、当院を受診される方の中では、これら外用剤が有効な方は多くないという印象です。

症状が中程度または重度の方は内服薬や関節内への注射による治療が選択されます。
内服薬では主に非ステロイド性消炎鎮痛剤が用いられ、必要に応じて他の薬剤を併用します。最近では「トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合製剤」と呼ばれる新しい鎮痛剤(トラムセットR配合錠 ヤンセンファーマ株式会社)が発売され、他の内服薬で十分効果が得られなかった疼痛を緩和できるケースもあります。

関節内注射には主にヒアルロン酸が選択され、中等度の関節痛にもしばしば効果が見られます。一定の期間をおいて、複数回注射をするのが一般的です。

もちろん上記の治療は単独で行うことはむしろ少なく、リハビリなどとも組み合わせて、複数の治療法を併用することがほとんどです。

手術療法

リハビリや薬物療法を行っても十分に症状が回復せず、日常生活や仕事の継続に支障がある場合には、手術療法が選択されることがあります。

手術療法は関節鏡(内視鏡)手術骨切り術(骨の矯正手術)人工関節置換手術のいずれかが選択され、膝の状態や各手術方法の長所・短所などを十分に考慮した上で、慎重に術式を決定します。

膝の靭帯(じんたい)損傷(靭帯断裂)

膝の軽い靭帯損傷は捻挫として取り扱われ、一時的な薬物療法や、テーピングなどの外固定で治療することで、問題なく治癒することがほとんどですが、靭帯の完全断裂にいたる場合には、適切な治療が行われないために膝の不安定性が残存し、将来変形性膝関節症に進行することもあるので注意が必要です。

最も頻度が高いのは、バスケットボールやサッカー、バレーボールなどのスポーツ活動中の靭帯損傷で、その他にもスキーや陸上競技など、あらゆるスポーツで発生しています。また自転車運転中に転倒して足を着いた時など、スポーツ以外の場面でも、膝を強く捻ることで靭帯損傷が発生することもあります。

膝周囲にはたくさんの靭帯がありますが、主に治療の対象となるのは、内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)および後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)です。

内側側副靭帯損傷(ないそくそくふくじんたいそんしょう)

この靭帯は膝の内側で大腿骨と脛骨との間の安定性に関与しているので、膝に強い外反力(外側に向かって膝を折るように働く力)が作用することで損傷にいたります。膝の内側に強い痛みを感じ、時に歩行が困難なほどになります。靭帯損傷部分の出血が内出血となって関節内に貯留し、関節全体に強い腫れ(はれ)を生じるようになります。

痛みなどの症状はかなり強いことが多い半面、単独損傷であれば予後は良好で、装具やギプスなどの適切な固定を行えば、スポーツ復帰も可能となることがほとんどですが、前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)などの他の靭帯損傷や半月板損傷を合併することもあるので、治療開始前には正確な診断が必要となります。

外側側副靭帯損傷(がいそくそくふくじんたいそんしょう) (後外側支持機構損傷)

膝の外側はこの外側側副靭帯のほかに、複数の靭帯や腱などが共同で安定性を担っており、これらを総称して後外側支持機構(こうがいそくしじきこう)または後外側複合体と呼ばれています。

この部の損傷は比較的まれですが、やはりスポーツや交通事故などで損傷することもあり、膝の著しい不安定性を生じる場合には靭帯の修復手術を要します。

前十字靭帯損傷

概要

前十字靭帯は膝関節内のほぼ中央に位置しており、大腿骨の後方から脛骨の前方に付着して、主に膝の前後方向への安定性を制御しています。

スポーツなどで、軽いジャンプから着地する時に膝を捻ることで、この靭帯を損傷することが多いようです。痛みが強く、しばしばプレーの続行が困難になります。膝は内出血のために腫れて、急に膝の力が抜ける「膝くずれ現象」が見られることもあります。

当初は強い症状が見られても、数週間経つと痛みが消失し、膝の曲げ伸ばしにも不自由がなくなって、「治った」と感じることもしばしばですが、この点は注意が必要です。

前十字靭帯は装具などの適切な治療を行えば、手術を行わなくても治ることもありますが、無治療で自然に治癒することは極めてまれで、一見治ったような状況になっても、スポーツを再開すると膝くずれや膝が抜けたような感覚、膝の腫れ、痛みが再発します。それでもしばらく安静にしていればまた症状が落ち着いて、日常生活にもほとんど支障をきたさないために、やはり治ったのではないかと誤解してしまいます。

このようなことを繰り返すうちに、半月板などの関節内構造物が傷んで、ついには変形性膝関節症を発症してしまう危険もありますので、軽い捻挫などと誤解して放置することなく、適切な診断と治療を受けることがとても重要です。

診断と治療

外来での診察段階でほぼ診断は可能ですが、合併する骨折や半月板損傷、骨内の出血の有無を確認するためにもレントゲン検査やMRI検査を行うのが一般的です。

装具などでの治療が成功することもありますが、適応となる条件はかなり限られていますので、やはりスポーツ活動を継続するのであれば関節鏡(内視鏡)を用いた靭帯再建手術(じんたいさいけんしゅじゅつ)が推奨されます。


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後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)損傷

この靭帯は膝を横方向から見た時、前十字靭帯とちょうど十文字をなすように、大腿骨前方から脛骨後方に向かって付着する靭帯で、やはり主に膝の前後方向への安定性に関与する靭帯です。

人の身体の中では最も太い靭帯ですから、この靭帯の損傷の頻度はそれほど多くありませんが、スポーツ活動中のほか、交通事故などで、膝の少し下あたりに前から後ろに向かって強い力が働いた時に後十字靭帯損傷が発生することがあります。

受傷直後には強い痛みがあり、特に膝の裏側に痛みや皮下出血が見られますが、前十字靭帯同様に、数週間ののちには痛みは落ち着いて、日常生活動作にあまり不自由を感じなくなることが多いようです。症状がなくなっても靭帯が治癒しているわけではないのですが、前十字靭帯と異なり、この靭帯損傷では、日常生活だけでなくスポーツへの復帰も可能となることが少なくないので、手術で靭帯を再建する割合は比較的少ないとされています。 それでも膝の不安定性のために階段昇降が苦痛になる、あるいはスポーツの継続が困難となるなどの支障があれば、やはり関節鏡を用いた靭帯再建手術(じんたいさいけんしゅじゅつ)を行います。

膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)

概要

膝蓋骨(いわゆる膝の皿)が完全に膝の外側に落ち込んだ状態を膝蓋骨脱臼(だっきゅう)と言い、完全に落ち込まないで、その途中までずれた状態を膝蓋骨亜脱臼(あだっきゅう)と呼んでいます。

先天的に骨の形態異常があって、膝蓋骨が不安定な人も多く、これらの人は軽微なきっかけで膝蓋骨が亜脱臼または脱臼します。また先天的な問題のない人でも、膝蓋骨の内側から外側に強い外力を受けると脱臼を生じることがあります。

膝蓋骨が脱臼するとそのまま膝を伸ばすことが困難となって、歩行も不可能なため、救急車で来院される方も少なくありません。

診断と治療

病院に来られれば診断は容易ですので、膝蓋骨を正常な位置に戻すことで、痛みはかなり楽になって、すぐに膝の曲げ伸ばしも可能になります。但し、一度膝蓋骨脱臼を生じると、治癒したあとで再発を繰り返すことがあるので注意が必要です。

初回の脱臼の場合で、先天的な骨の形態異常などがない場合は、ギプス固定などの適切な固定を一定期間行い、その後装具(膝蓋骨用サポーター)やテーピングで治療すれば再発をかなり減らすことが可能です。一方、骨折を合併している場合や、先天的要因で膝蓋骨の不安定性がある場合、亜脱臼や脱臼の再発を繰り返す場合などには手術を検討することになります。

骨折を合併した場合は骨の欠片(かけら)を元の位置にもどして固定する手術を行いますが、膝蓋骨の不安定性を治療するためには、膝蓋骨の内側にある靭帯(内側膝蓋大腿靭帯(ないそくしつがいだいたいじんたい))を再建する手術を行う必要があります。

さらにもともとの骨の形態異常などが著しいと診断された場合には、骨の矯正手術を行って、膝蓋骨の亜脱臼や脱臼を防止しなければならないこともあります。

半月板(はんげつばん)損傷

概要

半月板は膝関節の中で大腿骨と脛骨の間にあって、膝のクッションの役割を果たす重要な軟骨で、膝の内側と外側とに見られます。全体が三日月のような形態をしているため、半月板と名づけられ、形態的な特徴から膝の前後左右への安定性にも関与しています。

半月板損傷は膝のトラブルの中ではかなり頻度が高く、様々な原因で損傷しますが、若い方では主にスポーツ活動中に、体重がかかった状態で膝を捻ることで損傷を生じ、一方高齢者では加齢に伴って徐々に半月板が傷んでくる場合が多いようです。

半月板損傷を生じると、膝の曲げ伸ばしで痛みを感じるようになり、しばしば関節に水がたまった状態となって、特に階段昇降やしゃがみこみ動作が困難になります。また断裂した半月板の一部が関節内で引っ掛かると、膝の中で何かが引っ掛かったような感覚が自覚され、膝が抜けたような感覚や、著しい場合は引っ掛かりのために膝の曲げ伸ばしができなくなる(ロッキング)こともあります。

診断

半月板損傷はその頻度が多い割に、診断は必ずしも容易ではありません。

損傷部位を外から圧迫すると痛みが誘発される(圧痛)所見や膝を捻りながら屈伸することで痛みやクリックが誘発される所見(McMurray 徴候)などが診断には有用な所見ですが、確実な診断にはMRIが必要です。

治療

残念ながら、一度損傷した半月板は、自然にもとの状態に治癒することはほとんど期待できません。前十字靭帯損傷に合併する半月板断裂など、一部に自然治癒を見ることはありますが、やはり断裂部を治癒させるのには、関節鏡を使用した半月板縫合手術が必要となります。

但し、半月板はもともと血管分布に偏りがあるなど、他の組織に比べて治癒能力が高くないので、せっかく縫合しても治癒するとは限りません。そこで仕方なく関節鏡下に半月板損傷部の部分切除(半月板切除手術)を行って、関節内の引っ掛かりを解消することもあります。

生まれつき半月板が大きい、円板状(えんばんじょう)半月板では、その厚みも増しているため、半月板損傷を生じやすいと考えられます。この場合は半月板の縫合や部分切除だけでなく、半月板全体の形の正常に近い形にする、半月板形成手術を行うことがあります。

膝のスポーツ障害

スポーツ活動中の繰り返しのストレスによって、膝の周囲に炎症や循環障害、組織の微細な損傷などを生じて痛みを感じるようになる状態をスポーツ障害と呼び、これは靭帯断裂や半月板損傷など、一時的な強い外力で組織損傷を生じるスポーツ外傷と区別しています。

ほとんどのスポーツでは走る、横方向にステップする、ジャンプするといった、下肢を使った動作が不可欠であるため、あらゆるスポーツで膝の障害が発生します。いずれのスポーツ障害であっても、予防や治療のためには、活動前の適切で十分なストレッチやウォーミングアップはもちろん、活動後のクールダウンやストレッチもとても大切です。

スポーツ障害が発生した場合、スポーツ活動の中止によって症状が軽減し、治癒を得ることが期待できることも少なくありませんが、安易なスポーツの中止は選手のモチベーション低下につながり、スポーツ復帰がかえって難しくなくこともありますので、障害の状態を正確に把握して、スポーツの中断をできる限り少なくする方法を検討することも重要な治療の一環と考えています。

Osgood-Schlatter(オスグッド・シュラッター)病

この病気では、膝の前側で膝蓋骨のやや下あたりに大きな骨の膨らみを触れるようになり、同部に運動時の痛みを感じます。サッカーや剣道など、膝を強く伸ばす動作を多く行うスポーツを続けている男児によく発生します。

骨が膨らんで飛び出たようになった部分を脛骨粗面(けいこつそめん)と呼び、この部に症状が限局し、レントゲンでこの脛骨粗面に異常所見が見られると、診断が確定します。

症状が軽い場合は、ストレッチや装具療法を行い、スポーツを継続しながら治療することもできますが、なかなか症状が治まらない場合や、症状が強い場合は、仕方なくスポーツを中止し、安静にすることになります。

ジャンパー膝

膝蓋骨と脛骨粗面(けいこつそめん)(膝前面で膝蓋骨のやや下にある骨が膨らんだ部分)との間にある膝蓋腱(しつがいけん)と呼ばれる腱、またはその周囲の炎症によって痛みを生じる障害です。バレーボールやバスケットボールなど、ジャンプを多く行う競技で高頻度に発生することからこの病名で呼ばれるようになりました。

同じような膝のスポーツ障害にSinding-Larsen-Johansson(シンディン・ラーセン・ヨハンソン)病と呼ばれる障害があります。これは膝蓋骨の上側部分に痛みを生じ、やはりジャンプ競技など、膝を強く伸ばす競技を続けることで発生しやすいようです。

いずれの場合も治療はやはりストレッチやスポーツ活動後のアイシングなどが主ですが、なかなか症状が改善しない時には炎症を抑える薬(ステロイド剤)を局所注射することもあります。

また先天的に膝蓋骨が分裂した「分裂膝蓋骨」においても、スポーツがきっかけで痛みを感じるようになることがあります。この場合もジャンパー膝同様にストレッチなどによる治療を行いますが、症状が強くてスポーツの継続が困難な場合には、手術療法が選択されることもあります。

ランナー膝

ランニングによって生じる膝周囲の痛みをランナー膝と呼びますが、主に膝蓋骨の異常を起こす膝蓋軟骨軟化症(しつがいなんこつなんかしょう)と腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)とが含まれます。

膝蓋軟骨軟化症では、運動時の他に階段の昇降時に膝蓋骨周囲に痛みを感じ、体重をかけた状態で膝を曲げ伸ばしすると、痛みとともに異常音を生じることもあります。

局所の安静と適切な筋力訓練やストレッチ、膝蓋骨装具の使用で症状が軽減する場合がほとんどですが、重症例では手術が必要になることもあります。

腸脛靭帯は大腿から膝の外側を通る膜状の靭帯で、長距離のランニングやウォーキングでこの靭帯が炎症を起こすと、膝の外側に痛みを感じるようになります。一時ランニングを中止しなければならないこともありますが、ほとんどはストレッチや運動後のアイシングなどで治癒し、手術を必要とすることはまれです。

鵞足炎(がそくえん)

膝の内側に痛みを生じる病気としては、内側半月板損傷や変形性関節症が頻度の高い疾患ですが、それ以外にも、いくつかの腱が脛骨と接する部分に炎症が起こって、膝内側に痛みを生じることがあります。

膝を曲げるために働く腱のうち、脛骨の前内側に付着している複数の腱を総称して鵞足(がそく)と呼び、陸上などのスポーツによって炎症を生じ、痛みの原因となります。鵞足部分に圧痛を認めることが多く、時にこの部の腫れに気づくこともあります。

基本的な治療としては、ストレッチなど他のスポーツ障害における治療と同様ですが、症状が強く治療の効果がなかなか得られない場合には、ステロイドの局所注射が行われることもあります。


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股関節の痛み・股関節の病気やケガ

股関節とは足の付け根にある関節で、大腿骨の先端にある丸い部分(骨頭(こっとう))が骨盤のくぼみ(寛骨臼(かんこつきゅう))に入り込むような構造となっています。

股関節は周囲に多数の靭帯や筋肉などを持って、高い安定性を有していますが、中でも寛骨臼の縁を取り囲むような構造の関節唇(かんせつしん)と呼ばれる軟骨は、関節の安定性に寄与するだけでなく、その損傷により股関節の痛みを発生することが多いという点で重要です。

歩行時など、片足が地面から離れた状態になると、荷重のかかっている側の股関節には体重の約4倍もの力が働くと考えられています。したがって股関節の病気では、歩行時の痛みが強く、歩行障害や跛行(はこう)を生じる頻度が多くなります。

高齢者においては、骨粗しょう症による骨の脆弱(ぜいじゃく)性のため、しばしば転倒による股関節周囲骨折(大腿骨近位部骨折)を生じます。一方、若年者では股関節のケガは比較的まれで、中でも交通事故や転落事故における股関節脱臼がその主なものと言えます。

股関節に生じる病気の中では、膝関節と同様に、変形性股関節症が最も頻度の高い疾患で、その他関節リウマチによる股関節炎も多く見られます。

小児や若年者に多い病気としては、先天性股関節脱臼やペルテス病、大腿骨頭すべり症、単純性股関節炎が挙げられます。また化膿性股関節炎も乳児や小児に多く、細菌感染が原因となっているために、早期の診断と治療がとても重要です。

スポーツや職業に関連した股関節部の障害には鼡径(そけい)部症候群や梨状筋(りじょうきん)症候群なども上げられます。

中高年においては、変形性股関節症のほかに、大腿骨頭壊死(えし)や急速破壊型股関節症なども股関節痛を生じ、進行すれば深刻な下肢機能障害を生じることがあります。また関節唇損傷はスポーツ活動にともなって生じることもあり、比較的若い世代の方から中高年まで幅広い世代で見られる疾患です。

変形性股関節症

概要

加齢に伴って、関節内の軟骨が磨り減ったり、傷ついたりした結果、関節全体が徐々に破壊され、また関節周囲に異常な骨が新しく形成されて、歩行時や股関節の曲げ伸ばしの時などに痛みを生じる疾患です。

股関節だけでなく、臀部全体や時として膝周囲にいたる広い範囲に痛みを感じ、坐骨神経痛と間違えられることもあります。歩行の時に身体が左右に傾いてしまう「跛行(はこう)」もしばしば見られる症状です。

特に原因がなく、加齢とともに生じる変形性股関節症(一次性股関節症)だけでなく、先天的に股関節の構造に異常がある場合や、股関節の他の病気やケガがもとで変形性股関節症を併発してしまう場合(二次性股関節症)も少なくありません。

診断

初期の場合は坐骨神経痛などとの鑑別に注意しながら診断を進めますが、歩行に異常をきたすほどの進行した状態や二次性股関節症であれば、初診時の症状やレントゲン検査によってすぐに診断できることがほとんどです。

治療

保存的治療

体重のコントロールや杖の使用など、ライフスタイルの見直しや、リハビリ(運動療法)が基本的な治療と言えますが、症状が強い場合や日常生活動作に支障をきたしている場合などには消炎鎮痛剤の内服が必要になることも少なくありません。

リハビリでは、体幹や下肢のストレッチ、脚を外側に向かって広げる時に働く「中臀筋(ちゅうでんきん)」という筋肉を強化する訓練などを主に行いますが、適切な運動療法を行わないとかえって痛みが増すこともあるので注意が必要です。

難治性かつ慢性の痛みに対しては、変形性膝関節症と同様に「トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合製剤」が有効なこともあります。

膝関節と異なり、股関節へのヒアルロン酸の関節内注射は一般的ではありません。

手術による治療

あらゆる保存的治療を試みても痛みが改善せず、生活の質が低下してしまっている場合には、手術による治療を行います。

変形性股関節症には後述する関節唇損傷もしばしば合併することから、初期の股関節症であれば、関節鏡(内視鏡)による股関節唇縫合股関節唇部分切除でも十分な除痛効果が得られることがあります。

関節内の変形がある程度限局しており、まだ若年の患者さんの場合には、大腿骨や寛骨臼の骨の角度を矯正する、骨切り手術が行われることがありますが、関節全体に変形が及んでいる進行例や、高齢者での変形性股関節症には人工関節置換手術を行って、痛みを解消します。

股関節唇(こかんせつしん)損傷

概要

骨盤側のくぼみである寛骨臼(かんこつきゅう)を口に見立てた場合、その縁に文字通り唇のように位置している軟骨が股関節唇です。靭帯などと共に、股関節の安定性に深く関与しているため、股関節に無理な力が働いた際などには、この股関節唇が傷ついて、痛みの原因となります。

サッカーや野球などのスポーツ活動中に損傷することもありますが、加齢に伴って徐々に関節唇が損傷していくこともあり、幅広い世代に見られるのも特徴です。

動作時に股関節が「ずれたような」感覚や「ポキッという」異常な感覚を生じたり、股関節を前方に曲げたときに痛みや違和感を生じる場合に、股関節唇損傷を疑います。

診断

変形性股関節痛と同様に初期には診断が困難で、坐骨神経痛や鼡径(そけい)部症候群と診断されることもあります。

特定の姿勢で股関節痛が誘発されることが診断上有意義で、MRIは必須の検査です。MRIで関節唇に異常信号が確認できればほぼ診断が確定します。

治療

変形性股関節症と同様に、初期には日常生活の見直しや、運動療法、薬物療法などの保存的治療を行います。

保存的治療を行っても十分に症状が改善しない場合には、関節鏡(内視鏡)下手術を行って除痛を図ります。

先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)

概要

出生前後に股関節が脱臼した状態を従来から先天性股関節脱臼と呼んでいますが、近年では出生後の発育過程で生じる脱臼も多く見られることから、発育性股関節脱臼と呼ばれることもあります。

女児に多く、原因としては遺伝要因や子宮内での姿勢の異常、出産時や出生後の力学的な要因などが考えられています。

予防

新生児や乳児が仰向けに寝ている場合、股関節を曲げて、かつ関節を外側に開いた状態が自然な姿勢ですから、この自然な姿勢や関節を開く動作の妨げになるようなおむつの使用は避ける必要があります。無理に股関節を後ろ側に伸ばしたり、まっすぐの姿勢を強制したりすると、脱臼の原因となることがあります。

抱っこする場合でも、関節が閉じた状態での抱っこを日常的に行うことは避けるべきです。

診断

脚の長さや、太腿部分の皮膚のしわが左右非対称であったり、股関節を開く動作で強い抵抗や異常音を伴うと股関節脱臼が強く疑われます。レントゲン検査や超音波検査で大腿骨頭の位置異常が確認できれば診断が確定します。

また先天的に寛骨臼が浅い(臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん))が股関節脱臼の原因になることもあり、やはりレントゲン検査で確認します。

治療

新生時の軽症例では上記の股関節脱臼の予防に留意していれば、自然に治癒することもありますが、乳児期に股関節脱臼が残っている場合は、専用の装具を使用した装具療法を行って脱臼した関節を正常に戻す(整復(せいふく)する)ことを試みます。しかし、装具療法を行っても脱臼が整復できないこともあり、その場合は入院した上で牽引療法や麻酔下の徒手整復を行います。

関節内に整復を阻害する障害因子があって、どうしても整復が不可能な場合や、幼児期まで成長し、歩行するようになってもなお脱臼が整復されずに残存している場合には、手術による治療が選択されます。

大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)

概要

骨頭と呼ばれる大腿骨の関節内部分が壊死(細胞が死んで、構造も維持できなくなった状態)したために、徐々に骨頭が崩れるように変形して、強い痛みや歩行障害を生じる疾患です。片側股関節で大腿骨頭壊死を発症した場合、約半数で反対側の大腿骨頭にも壊死が見つかると言われています。

骨折や脱臼がもとで大腿骨頭壊死を生じることがあり、その他にも癌の治療のための放射線が原因となることもあります。

また原因がはっきりしない特発性(とくはつせい)大腿骨頭壊死は比較的若い世代に発生し、ステロイド剤の使用やアルコールの過剰摂取が原因の骨頭壊死も特発性大腿骨頭壊死に含まれます。

診断

股関節やその周囲の痛みで発症することが多く、問診では過去の骨折や脱臼、放射線治療歴などの情報がとても重要です。特発性大腿骨頭壊死の場合には、特徴的な症状に乏しいため、レントゲンやMRIなどの画像検査が必須です。

進行した大腿骨頭壊死では骨頭の変形など、特徴的な異常が見られますが、まだレントゲンで診断ができない初期の段階ではMRIが非常に有用です。

治療

保存的治療

大腿骨頭の中でも、体重がかからない部分が壊死している場合は、痛みなどに対する対症療法だけでよいと考えられていますが、壊死範囲が拡大することもあるので、定期的な経過観察が必要です。

松葉杖を使用するなどして、長期間壊死部分に体重がかからないようにできれば、壊死部が修復され治癒することも期待できますが、実際には下肢に体重をかけないで生活することはとても困難なため、壊死範囲が広い場合や体重のかかる部分に壊死を生じた場合には、手術による治療が行われます。

手術による治療

大腿骨頭の中でも、壊死せずに健康な状態を維持している領域が十分にある場合には、この健康な部分を荷重部に利用する骨切り手術が行われ、また比較的早期の骨壊死の場合には骨頭への骨移植を行って、壊死部の再生を促す治療が選択される場合もあります。


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一方、進行した大腿骨頭壊死では、骨頭だけでなく関節全体に変形を生じるため、骨切り手術だけでは十分な効果を得ることができず、人工関節置換手術が適応となります。

肩の痛み・肩の病気やケガ

一般的に肩と言うと、首の後ろあたりから肩甲骨周囲、さらに鎖骨周囲から腕の付け根あたりまでを指し、肩凝りがこの領域で最も頻度の高い症状と言えるでしょう。

広い意味では肩凝りも肩の病気ということになりますが、医学的に肩関節と言えば、肩甲骨(けんこうこつ)と上腕骨(じょうわんこつ)(腕の骨)とで構成された、いわゆる腕の付け根の関節を指します。

腕を使って様々な作業を行うために、単に曲げたり伸ばしたりといった単純な動作だけでなく、あらゆる方向に自由に動くことができるのが肩関節です。関節の動きに自由度が高い分、他の関節に比べて安定性の点で劣り、脱臼の頻度が高いのも肩関節の特徴です。

他の関節同様に多数の靭帯や関節唇(かんせつしん)などで肩関節の安定性が維持されており、肩の脱臼時にはこれらの関節周囲組織に深刻な損傷を伴い、しばしば脱臼の再発を繰り返すことになります。

腕を上方に挙げる動作や、外側や内側に回旋させる動作を行うために、上腕骨に付着する腱板(けんばん)と呼ばれる複数の腱の複合体が働いています。加齢に伴ってこの腱板やその周囲に炎症を生じると肩関節周囲炎(五十肩)となり、肩を挙げる動作で腱板などが周囲組織に衝突して痛みを生じる病態を特にインピンジメント症候群と呼びます。

また外傷や加齢によって腱板が断裂することもあり(腱板損傷)、不完全な断裂では肩の痛みが主な症状になりますが、完全に断裂すると腕が挙がらなくなって、著しい機能障害を生じることになります。

腱板部分に石灰が沈着して激痛を生じる石灰性腱板炎も中高年に好発する肩の疾患で、いずれも肩の運動時痛と「就寝中に痛みで目が覚める」夜間痛も特徴的な症状です。

若年者やスポーツ関連の肩の障害としては、投球による障害(リトルリーガーズショルダー)や水泳に起因するインピンジメント症候群、肩関節不安定症があります。

肩は荷重関節ではないため、加齢にともなう変形性肩関節症の頻度は下肢の関節に比べるとかなり少なく、他の疾患や外傷が原因となる続発性(二次性)変形性肩関節症の割合が多いのも肩の特徴と言えます。

五十肩(肩関節周囲炎)

概要

40歳代〜60歳代に多く見られ、痛みによって肩が動かしにくくなった状態を一般に五十肩と呼んでいますが、加齢に伴って、腱板その他の肩関節周囲組織が傷み、炎症を生じることが主な原因であることから、肩関節周囲炎とも呼ばれます。

あらゆる肩の運動で痛みが誘発され、また夜間痛もしばしば見られる症状で、「夜中や明け方に肩の痛みで目が覚める」というのが典型的な症状です。肩を中心に、肩甲骨周辺や腕にいたる広い範囲に痛みを感じることもあります。

診断

この疾患はレントゲンなどの画像検査では特徴的な所見が指摘されることは少なく、主に症状から診断される疾患と言えます。

頚椎(首の骨)やその周囲の病気に起因する神経痛でも肩や腕に痛みを生じることがありますが、その際は肩を挙げることでむしろ痛みが軽減することが多く、肩関節周囲炎では肩をあげることで痛みが誘発されることから、両者の鑑別が可能です。

また肩関節周囲炎では、頭の後ろ側で髪を結ぶ動作や、腰の後ろに手を回す動作が困難になることもあります。

治療

強い痛みや運動制限を伴い慢性に経過する病気ですが、徐々に症状が改善し、予後は一般に良好と考えられています。

保存的治療を原則とし、肩が冷えないようにする、就寝時の腕の位置を工夫するといった生活指導や、リハビリ(運動療法)が一般的な治療です。非ステロイド性消炎鎮痛剤を使用する頻度も高く、症状が強い場合はヒアルロン酸やステロイド剤の関節内注射が行われることもあります。

慢性難治性の場合には「トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合製剤」の内服も検討します。

関節鏡(内視鏡)を用いて関節を動きやすくする手術を行うこともありますが、これらの手術が必要となることはまれです。

肩の脱臼

概要

スポーツや転倒事故などの外傷によって一度肩を脱臼すると、その後もわずかな外力で脱臼が再発して、いわゆる「脱臼ぐせ」になることがあります。

また外傷に関係なく脱臼を繰り返す非外傷性不安定症(ひがいしょうせいふあんていしょう)もあって、若年の女性に多く見られます。

非外傷性不安定症では痛みがあまりないこともしばしばですが、外傷による肩の脱臼では痛みがとても強く、脱臼を元の状態にもどす整復操作を行わないと、肩を動かすことが困難になります。

脱臼ぐせがついて、何度も脱臼するようになると、特定の姿勢や運動をしただけで脱臼しそうな不安を抱くようになり、スポーツ活動に支障をきたすこともあります。

診断

脱臼した状態で来院されれば診断はとても容易です。骨折の合併を調べるためにレントゲン検査を行い、検査により上腕骨や肩甲骨の一部に特徴的な骨折を認めることもあります。

脱臼が整復(せいふく)された状態で来院された場合でも、それまでの病歴やレントゲン所見によりたいていは診断を得ることができます。

MRI検査ではバンカート病変と呼ばれる特徴的な所見が見られることが多く、治療方法の選択の際に有用な所見です。

治療

保存的治療

初めての脱臼の場合には、確実な固定により損傷した組織の修復を図り、その後にリハビリを行って、脱臼ぐせにならないようにします。この初回脱臼時の治療は脱臼ぐせにならないためには特に重要です。

脱臼ぐせとなってしまった場合には、肩関節周囲の筋力訓練などの運動療法で、再度の脱臼を防止します。

手術による治療

脱臼ぐせになってしまった場合や、脱臼に対する不安感が強くスポーツ活動に著しい支障を生じている場合、運動療法によっても症状が改善しなければ手術による治療を行います。

数多くの手術方法が報告され、施設によっても選択する手術は様々のようですが、関節鏡(内視鏡)の普及とともに、近年では関節鏡視下に関節の前方部分を修復する方法(鏡視下バンカート法)を選択することが多くなっています。

腱板損傷(腱板断裂)

概要

腱板とは腕を上げる運動や、腕を内外に回す運動をする時に主に働く筋をまとめたもので、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)および肩甲下筋(けんこうかきん)の4つを指します。

腱板損傷は若年者から高齢者まで広い世代に見られますが、高齢者ではわずかな外力や、時として特に誘引なく腱板が断裂することがある一方、若年者ではバイク事故などの強い外力や、野球のピッチャーなどで頻回の投球動作を行った場合などに腱板損傷が発生します。

症状としては、肩の運動で痛みが誘発され、特に肩を挙げる動作で強い痛みや、時として雑音を生じることもあります。また肩関節周囲炎と同様に夜間痛を伴うことも少なくありません。

診断

肩の運動時痛など、上記症状の他に、腕を外側に挙げようとしても十分に力が入らないなどの症状を伴えば、腱板の機能不全を疑います。重度の断裂ではレントゲン検査で上腕骨と肩甲骨との位置関係に異常を認めることもあるので、やはりレントゲン検査は有用です。

確定診断にはMRI検査を行うことが一般的ですが、時に超音波検査や関節造影検査を行って診断することもあります。

治療

保存的治療

腱板の部分断裂であれば、一定の安静期間を経た後に徐々に症状が軽減することも多いため、非ステロイド性消炎鎮痛剤や関節内注射などで痛みを緩和させ、適切な運動療法(リハビリ)を行いながら、腱の治癒を待ちます。

一方、腱板の完全断裂の場合には、保存的治療だけで腱の連続性を再獲得することは困難と考えられています。

手術による治療

腱板が完全に断裂し、肩の痛みや機能障害が著しい場合には、腱板の縫合(修復)手術を行います。施設によっても方法は様々ですが、最近では関節鏡(内視鏡)下に腱板を縫合する手術の割合が増えています。

但し、腱板の断裂部の状態によっては、単純な縫合が困難で、腱板以外の筋肉や腱を利用して肩の機能を再建しなければならないこと(腱移行手術など)もあり、全ての腱板断裂が関節鏡下手術の対象になるわけではありません。

変形性肩関節症

概要

肩はいわゆる荷重関節ではないため、常に体重のかかっている膝や股関節と比べると、加齢に伴って生じる変形性関節症の発生頻度は低いと言えます。

但し、肩の脱臼を繰り返し、その度に関節軟骨や関節周囲の靭帯などが傷を受けると、続発性(二次性)の変形性肩関節症を生じる可能性が高くなり、脱臼以外にも腱板の損傷などに続発して変形性関節症を生じることがあります。

肩関節に変形を生じると、肩の運動時の痛みや、夜間の痛みに加えて、腕を挙げたり回したりする動作に支障をきたし、また一旦発症するとなかなか元通りの機能を取り戻すことが困難なため、やはり変形性肩関節症に移行しないように、肩の脱臼などは適切に治療することが重要です。

診断

初期の変形性肩関節症では肩関節周囲炎など、他の疾患との鑑別が困難なこともありますが、ある程度進行した場合には、レントゲン検査で特徴的な所見を認めるようになり、初診時に確定診断が可能なことも少なくありません。

変形性肩関節症では腱板の異常を伴うことも多く、やはりMRI検査も有意義な検査と言えます。

治療

保存的治療

膝や股関節と同様に、変形性肩関節症においても、関節の変形そのものを元の状態に戻すことは困難なため、治療の目標は痛みの緩和と機能の回復ということになります。


痛みに対しては、非ステロイド性消炎鎮痛剤の使用や関節内への注射が選択されることが多く、運動療法(リハビリ)も、機能障害へのアプローチとしてだけでなく、痛みの緩和にも有用なことがあります。

肩の保温は一般に痛みの軽減に有効で、特に夜間痛のある場合には、就寝中の保温に留意することで、症状の出現頻度を減らすことができることもあります。

手術的な治療

保存的治療を一定期間行っても肩の痛みが強く、肩の機能障害が著しい場合には、手術も検討します。関節鏡(内視鏡)によって、関節内の病的な組織を取り除くだけでも痛みの軽減は期待できますが、治療開始時にはすでに変形が進行してしまっていることも多く、著しい変形に対しては人工関節置換手術または人工骨頭挿入手術を選択します。

関節リウマチなど特別な場合を除き、肩の場合は関節全体を人工関節に置換することは少なく、肩甲骨側には人工関節を設置しないで、上腕骨(腕の骨)側にだけ人工関節を設置する人工骨頭挿入手術を行うことがほとんどです。

その他の病気やケガ

当院では関節の病気やケガを主に診療していますので、膝関節、股関節、肩関節のトラブルで来院される方がほとんどですが、その他にも足首の病気やケガ、さらに肘や手首、指など、様々な関節のトラブルがあります。

また、膝や股関節など下肢の関節にトラブルを生じると、腰痛を合併することも多いので、腰痛治療を併せて行うことも少なくありません。

一方、手首や指の病気やケガは、整形外科の中でも「手の外科」という専門領域に含まれますので、「手の外科」専門医に紹介して、診療をお願いすることもあります。

足首の捻挫

足首の関節を、整形外科では足関節(そくかんせつ)と呼んでいます。

足関節の捻挫はスポーツ活動の中のケガとしては最も多く遭遇するものの一つで、バスケットボールやバレーボールをはじめとして、あらゆるスポーツ活動で見られ、同じ選手が捻挫を何度も繰り返すことも珍しくありません。もちろんスポーツ以外でも、転倒した際に足関節を強く捻るなどすると捻挫状態となります。

捻挫と靭帯損傷(靭帯断裂)とを区別して定義することもありますが、実際の診察で両者を厳密に区別することは困難です。

足を強く内がえしにしたために、足関節外側の靭帯にトラブルが起こり、外側の踝(くるぶし)周囲に痛みや腫れ、時には皮下出血を伴うものが最も多いタイプです。この場合には、足関節外側の靭帯が断裂して、足関節が不安定になっていることも少なくありません。

また捻挫後に痛みだけでなく、著しい腫れなどを伴う場合には、骨折を合併していることもあるので、レントゲン検査を行って合併する骨折を除外することは重要です。

足関節周囲の靭帯に損傷があって、症状も強い場合には、テーピングや装具などを用いて、損傷した靭帯が治癒しやすい環境を作ります。

初期に適切な治療を行わないと、損傷した靭帯が十分に修復せず、そのまま足関節の不安定性が残存して、将来変形性関節症になることもありますので、「ただの捻挫」と軽視することは禁物です。

何らかの理由で、足関節の靭帯損傷が十分に治癒せず、著しい不安定性を残してしまった場合には、靭帯の再建手術を行う場合もあります。

変形性足関節症

概要

膝関節や股関節に比べると頻度はかなり少なく、加齢に伴うものよりも、関節の脱臼や関節周辺骨折、靭帯損傷などが原因となって発生するものが多いのが特徴です。但し、高齢化社会の広がりに伴って、加齢に伴う変形性足関節症も増えています。

立ち上がりや歩き始めの足関節の痛みがよく見られる症状で、長距離歩行や階段昇降でも痛みを感じることがあります。足関節の腫れを伴うことも多く、進行すると足関節の動きが十分にできなくなります。

診断

診断はレントゲン検査を行えば比較的容易です。

治療

治療には膝や股関節と同様に消炎鎮痛剤などの薬剤による治療を行いますが、ヒアルロン酸の関節内注射は一般的ではありません。

生活指導やリハビリ、装具療法で歩行時の痛みが軽減することもありますが、保存的治療を行っても症状が改善しない場合には、手術療法を検討することになります。

足関節の人工関節置換手術もあり、足関節の動きを残したまま痛みを緩和する効果が期待できますが、膝や股関節に比べると術後成績が安定しているとは言えないため、現在でも関節の動きを止めて痛みを生じにくくする、足関節固定手術を行うことが少なくありません。

離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)

概要

10歳代から20歳代で発症して、肘や膝、足首(足関節)の痛みの原因になる病気です。
罹患(りかん)した関節内では、軟骨のすぐ下にある骨の一部が壊死(えし)することによって、周囲の骨軟骨から切り離されるように、連続性を失った状態となっています。

肘の離断性骨軟骨炎は、野球など、投球動作を行うスポーツで発生しやいとされています。

初期の状態では運動時の痛みや違和感が主な症状ですが、壊死した骨軟骨が、周囲から離れて不安定な動きをするようになると、痛みも強く、関節の腫れなども伴うようになります。

さらに壊死した組織が完全に遊離して、関節内で引っ掛かるようになると、激痛を伴って関節が突然動かなくなるような症状(ロッキング)を生じることもあります。

診断

初期の離断性骨軟骨炎はレントゲンだけでは診断できないこともあるので、問診や症状などから離断性骨軟骨炎が疑われた場合には、MRI検査を行って診断します。

治療

肘の場合など、体重のかからない部位で、まだ初期の状態であれば、安静にして経過観察を行うこともありますが、壊死した組織がすでに不安定になっている場合や、膝などで体重がかかる部位に発生した場合には、手術を行います。

手術は不安定な病巣を安定させるように固定を行う手術、遊離した壊死組織を摘出する手術、進行して大きく欠損してしまった部位に骨軟骨を移植する手術など、病状によって様々な術式が選択されます。

適切な治療が行われずに放置された場合には、変形性関節症の原因になることもありますので、病状を正しく把握して、それぞれの病状に適した治療を選択することが重要です。

テーピングについて

テーピングについて

テーピングとは、専用のテープを用いて関節や筋肉の動きをコントロールして、ケガや障害をきたした部位を保護しながら、スポーツ活動などを助けるテクニックのことです。

テーピングの目的

(1) ケガの予防
(2) ケガの再発予防
(3) ケガをした際の応急処置
(4) 痛みの緩和

テーピングの効果

(1) 関節の動きを制限して、ケガの発生を防止する。
(2) ケガの応急処置の際に、患部を圧迫して、出血や腫れを少なくする。
(3) 筋肉や腱、靭帯を補強・保護して、障害発生を防止する。
(4) テーピングにより得られる、精神的な安心感によって、プレーに集中できる。

足関節テーピング

・テーピングを巻くときは、足首を90度にしておきましょう。
・テープがシワにならないように巻きましょう。
・テーピングは運動前に張り、運動後はすぐに外しましょう。

使用するテープ

アンダーラップ 黄色
非伸縮テープ(38mm) 白色のテープ
伸縮テープ(50mm) 茶色のテープ
  • ・ヒールロックは踵(かかと)部分に不安定感がある時に有用です。
  • ・すねの内側から踵を通り、外側まで巻いていきます。
  • ・踵の外側を通って、斜めに土踏まずの方向に巻き、足の内側に向かいます。
  • ・足の内側で上向きにアキレス腱の後ろ側を通り、すねの外側に達したところでテープを切ります。

テーピングの注意点

皮膚の保護

テーピングを必要以上に強く巻くと、しばしば皮膚に水疱(みずぶくれ)を生じ、特にケガのあとで患部が腫れている場合に起きやすいので注意が必要です。

テーピングの際には、できるだけアンダーラップを使用するようにしましょう。アンダーラップのためにテープの固定性が低下すると思われる場合には、粘着スプレーを用いるとテープの固定性を増すことができます。

テープを巻く部位は清潔にし、皮膚に傷がある場合にはガーゼなどで保護します。

体毛が濃いときには剃毛をすることでテープを剥がす時のトラブルを防ぐことができます。

また、テープやアンダーラップなどに対してアレルギーのある方もおられますので、かぶれなどがある時には、無理にテーピングを継続しない方がよいでしょう。

正しい方法でテーピングを行う

テープを巻く際には、できるだけ正しい姿勢や関節の角度を保つよう心がけるようにしましょう。これらを怠るとテーピングの効果は低下し、使用中も違和感や痛みを生じる原因になることがあります。

また、テーピング後に違和感を生じたら、無理にそのままプレーを続けることは避け、面倒でも巻き直しを考慮することが大切です。

テープの正しい巻き方だけでなく、関節の解剖や機能、ケガや障害の状態を正確に把握しておくことは、テーピングを安全かつ効果的に行う上でとても重要ですが、いつもそばにトレーナーがついているわけではないので、日頃からケガや障害の起きやすい部位についての知識を持つように心がけ、うまく行かないと感じた時には、あまり自己判断に頼らずに、必要に応じて医師の診断やアドバイスを受けるようにしましょう。



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