2012年5月18日金曜日

運動生理学の測定方法の原理とデータ解釈(持久力)


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7.持久力測定法:作業成績による測定

 作業成績による持久力測定は,特別な器具や装置を必要とせず,実施が比較的容易で多人数の測定が可能などの利点があり,文部科学省式では1,500m or 1,000m歩行(走)が用いられ,保健・医療の現場でも広く用いられています.しかしながら,対象者の意欲・集中力などの精神的要素や用いた運動に関する慣れ・技能の関与が大きいとされ,その客観性には異論もあるようです.

 現在,保健・医療分野では作業成績のうち歩行試験(フィールドウォーキングテスト)がよく利用されています.歩行試験は「一定の距離を移動するのにどれだけの時間がかかるか」または「一定の時間内にどれだけの距離を移動できるか」を測定するテストで,その結果は持久力の指標となります.中でも6分間でどの程度歩行できるかを測定する6分間歩行テスト(6 minutes walk test: 6MWT)と,検査手順が標準化され運動負荷量を漸増させるシャトルウォー.キングテスト(incremental shuttle walking test: ISWT)が用いられることが多くなってきています.


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  1. 歩行試験
    1) 6分間歩行テスト(6MWT)
     6MWTはGuyattらによって標準化が始まったself-paced testで,心不全や終末期の呼吸不全,慢性呼吸不全,慢性腎不全,疾病を有する小児,高齢者などを対象に実施した報告が数多く見られます.6MWTの目的は,中等度から重度の呼吸器疾患・心疾患患者の病態の日常生活への影響や介入の効果を測定することで,正確なVO2maxや運動・作業制限因子を解明するものではないとされています(VO2maxとの関連性を報告するものも多い).確かに言えることは,6MWTは対象者の日常生活における持久性を中心とした機能障害の程度とそれに対する介入効果を評価するツールとして定着していることです.

 現時点では,6MWTの結果の解釈については一定の見解が得られておらず,最新のガイドラインでは歩行距離の絶対値評価が推奨されています.6MWTの歩行距離は年齢や性別,身長,声掛け,試行回数などに影響を受け,持久力の自覚的な改善を得るためには54m以上の増加が必要とされています.


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2) シャトルウォーキングテスト(ISWT)
  ISWTは20mシャトルテスト(20-meter shuttle test:20-MST)の修正版としてSinghらによって報告されたexternal-pacedテストです.6MWTと同様に最大歩行距離が持久力の指標になり,これまでのところ慢性閉塞性肺疾患や慢性心不全,心移植患者などを対象に実施した報告がみられ,国内の報告も増えてきています.その中で,ISWTはトレッドミルを用いた運動負荷試験の結果との高い相関が報告されており,対費用効果の高い全身持久力の評価ツールとして注目を浴びつつあります.

3) その他の歩行試験
 歩行(走行)試験としては,作業成績からVO2maxを推定する12分間走行テスト(12-minute run test : 12-MRT, Cooper, 1968)が最も有名です.VO2maxが30〜60ml/kg/minの範囲ではVO2maxと走行(歩行)距離との間に比例関係があり,
12分間走行距離(mile)=0.3138+0.0278×VO2max(ml/kg/min)の式に当てはめると持久力が推定できるとされています.その他12-minute walk test(12-MWT),20-meter shuttle test(20-MST),1-mile track walk test(1-MTW, Rockport fitness test),self-paced walking test(SPWT)などが行われています.


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 bag and carry test(BCT)やtime up & go test(TUGT)は持久力以外の体力要素を含めた試験であり,その結果のみから持久力の評価を行うことは難しいと思われます.

 Faggianoら(1997),Steffenら(2002),丸岡ら(2002)は6MWTやTUGTなどの結果を検討し,歩行試験は場合によって心血管系へかなりの負担をかけるテストであることを報告しています.簡便とはいえ,歩行試験実施にあたっては安全性に十分配慮する必要性があることは言うまでもありません.


  1. その他
    1) 踏台昇降テスト(Canadian Aerobic Fitness Test他)
     踏み台昇降テストは,多くの対象者を単位時間内に測定するために開発された持久力評価テストで,運動持続時間と運動後の回復期HRから全身持久力を評価する方法です.日本人向けに改良されたステップテストは, 学校現場では繁用されていますが,運動生理学的にはVO2maxとの相関が低いこと,中高年者への適用には運動時間が短すぎることなど,持久力検査としては精度に欠けると言われています.

2) physiological cost index(PCI)
 PCIは歩行時のエネルギー効率(心拍数一拍あたり)を示す指標で,リハビリテーションの分野では比較的よく使用されています.PCIは以下の式に示すように心拍数(HR)と歩行速度によって求められ,通常は3分間の連続歩行によって求められていますが,その再現性についてはまだ十分に認められていません.

PCI(拍/m)=[ 歩行後HR(拍/分)一安静時HR(拍/分) ] ÷歩行速度(m/分)



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